代謝性寒冷馴化の特性である非ふるえ熱産生(NST)の主要発現部位である褐色脂肪組織(BAT)は寒冷馴化によって著しい細胞増殖と機能亢進を起こす。その主な調節は交感神経のノルアドレナリン(NA)、種々のホルモンによって多因子的に行われている。本研究では膵ホルモン・グルカゴン(G)についてさらに検討を進め、また細胞膜糖脂質のガングリオシドの増殖因子としての可能性について検討した。1.ラットBATのGレベルは血漿の3ー4倍高い値であり、また背頸部では肩甲骨部より高かった。寒冷馴化、急性寒冷暴露、非温度性ストレス(拘束)はいずれもBATーGレベルを上昇させた。2.NA投与によってNSTを最大に発現させると、同時にGの分泌も刺激され、その反応は寒冷馴化によって促進し、またBATのGレベルも上昇した。3.ラットBATのinvivoでのNAおよびGによる熱産生は寒冷馴化によって促進するが、in vitroでは寒冷馴化によって寧ろ反応は低下することが示された。この現象はアデノシンによる抑制によるものではなかった。しかし別に行ったモルモットのBATでの実験ではin vivoの結果と同様に寒冷馴化による反応の促進がみられた。4.1日6時間の寒冷暴露を4週間行う間欠的反復性寒冷暴露は4週間の持続的寒冷暴露と同程度の寒冷適応能を発現させ、BATのグルカゴンレベルを上昇させた。5.BATのガングリオシドレベルは寒冷馴化、累代寒冷飼育によって上昇させた。また成熟ラットに比べてBATの体重当たり重量が大きく、代謝活性の高いことが知られている生後4ー14日のBATのガングリオシドレベルが高いことが見い出された。以上の結果はグルカゴン、ガングリオシドがBATの増殖と機能の調節因子として働いていることを示唆する。
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