研究概要 |
マウスに赤トウガラシの辛味成分であるカプサイシンを1回皮下注射すると, 比較的長い潜時の後に角膜の混濁が発現する. 本年度の研究はこのカプサイシンによる角膜混濁の発現に及ぼす6ーヒドロキシドパミンによる化学的交感神経切除の影響を観察した. ddYマウスの生後1日目と2日目に6ーヒドロキシドパミン100mg/kgを皮下注射し, 2日目の5時間後にカプサイシンを投与した. カプサイシンの単独投与群では投与23日目に混濁の発現率は100%に達した. 混濁強度は平均1.8を50日以上維持した. 6ーヒドロキシドパミンの併用群では, 角膜混濁の発現率は約20%で, その強度も著しく抑制した. カプサイシン投与2ヵ月後の前眼部のサブスタンスP量は, カプサイシンの投与量に依存して減少していた. 6ーヒドロキシドパミンとの併用群でもサブスタンスP量は減少したが, カプサイシン単独投与群ほどではなかった. 6ーヒドロキシドパミンとカプサイシン50mg/kgの併用群では, 前眼部のサブスタンスP量が正常の26%に減少しているにもかかわらず角膜の混濁はカプサイシン12.5mg/kg単独投与群(サブスタンスP量77%)よりも軽度であった. また6ーヒドロキシドパミンを脳室内に投与した群では, 上記の皮下注射した群と異なり角膜混濁の抑制はほとんど発現しなかった. このようにカプサイシンの皮下注射によって発現する角膜の混濁はサブスタンスPを含有する神経が変性したために起こると考えられるが, 化学的交感神経切除によってノルエピネフリンを同時に減少させると混濁が軽減されることが明らかとなった. 以上のことからカプサイシンによる角膜混濁の発現にはサブスタンスPを含有する求心性一次ニューロンの機能低下と, これに伴う交感神経の相対的機能亢進が大きく関与しているものと考えられる.
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