カプサイシンは細い求心性一次ニューロンを変性させることが知られているが、われわれはこのカプサイシンをマウスやラットに皮下注射することによって、角膜に混濁が発現することを報告した。本年度の研究では、このカプサイシンによる角膜混濁に及ぼす化学的交感神経切除の影響についてマウスを用いて観察した。交感神経終末を変性させることが知られている6ヒドロキシドパミン(6OHDA)を生後1日および2日目のマウスに皮下注射し、その5時間後にカプサイシンを与えると角膜混濁の発現は著明に抑制された。また生後14日および15日目に6OHDAを投与し、16日目にカプサイシンを与えたマウスでも混濁は明らかに抑制された。この抑制効果はカプサイシンを投与したあとに60HDAを与えた場合にも認められた。しかし6OHDAを脳室内に投与し中枢神経内のカテコールアミンを減少させたマウスでは、混濁の抑制は一時的で軽度であった。6OHDAと同様に交感神経終末を変性させるDSP4の前投与によってもカプサイシンによる角膜混濁は抑制された。頭部組織中のカプサイシン濃度は6OHDA処置では変化なかった。前眼部のサブスタンスP量はカプサイシンの投与量に依存して減少した。幼若時6OHDA投与はカプサイシンによるサブスタンスP量の低下を抑制した。しかしながら、角膜混濁は6OHDAを前処置しないカプサイシンの少量投与と比べて6OHDA処置後のカプサイシン大量投与の方が軽度であり、それに反して前眼部のサブスタンスP量はカプサイシン少量単独投与の方が低かった。このことより6OHDAによるサブスタンスP減少の抑制から角膜混濁の抑制効果を説明することはむつかしい。本研究から、カプサイシンによる角膜混濁は末梢での交感神経活性の低下により著しく抑えられることが示唆された。
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