カプサイシンはサブスタンスPを伝達物質とする知覚一次ニューロンを破壊することが知られている。新生仔マウスへのカプサイシンのたった1回の皮下注射によって、比較的長い潜時のあとに高率に混濁を含む角膜の変化が発現したるこの角膜の混濁はカプサイシンの投与後約1カ月間は徐々に進行増悪し、その後しだいに軽減して6カ月後には高用量投与群(50-100mg/kg)でも約50%のマウスにしか認められなくなる。同様な角膜混濁はカプサイシンを新生仔ラットに投与した場合にも認められた。このようなカプサイシンによる角膜の混濁は三又神経の破壊によって発現する可能性が示唆された。このカプサイシンのマウスへの皮下注射によっておこる角膜混濁に対する化学的交感神経切除の影響を観察した。生後1および2日目あるいは14および15日目に6ヒドロキシドパミン(60HDA)を皮下注射するとカプサイシンによる角膜の混濁は著明に抑制された。この抑制効果はカプサイシンの後に60HDAを与えても観察された。60HDAの脳室内投与は一時的かつ軽度な抑制しか示さなかった。交感神経を強力に抑制するDSP4によっても60HDAの抑制効果と似た抑制を示した。頭部組織中のカプサイシン濃度は60HDA処置によって変化しなかった。前眼部のサブスタンスP量はカプサイシンの投与量に依存して減少した。新生仔への60HDA投与によって、カプサイシンによるサブスタンスP減少を抑制したが、この60HDAの効果は混濁発現を抑制する作用を説明できるほど著明ではなかった。眼球内ノルエピネフリン量は60HDA処置により減少したがカプサイシンによっては減少しなかった。これらの結果からカプサイシンによる角膜混濁の発現は末梢での交感神経機能の低下により著しく抑えられることが明らかとなった。
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