研究概要 |
チアノーゼを主訴とするヘモグロビン(Hb)M症は, 点突然変異により生ずることが明らかになっているが, 変異部位の置いにより, 現在5種類知られている. いずれのHbMでも, 変異部位はヘムポケット内にあって, 異常鎖のヘム鉄は酸化されている. これらは, 正常Hbの酸化型とは非常に異る特徴的な吸収スペクトルを示し, HbMではヘム鉄が単に酸化されているのみではなく, ヘムの電子状態が可成正常Hbとは異っていることが推測される. 又, HbM間にあっては, 正常鎖の酸素親和性に与える影響, 異常鎖の還元性, およびタンパクの安定性等とに相違がみられる. これらが患者の臨床症状にも反映し, チアノーゼの程度がHbM間で異ったり,赤血球中にハインフ小体がみられたりしている. これらの相違が何に由来するのかを知る目的で今年度は, 5種類のHbMの紫外領域の吸収・円二色性(CD)スペクトル,及び共鳴ラマンスペクトルについて調べた. 1.紫外部吸収・CDスペクトルによる知見:5種類のHbMについて250〜350nmの吸収スペクトルを比較すると, HbMMilwaukee(β Ell val→Glu)はほぼ正常Hbと同様であったが, 他の4種のツロシン(Tyr)還接型HbMでは, 275nmの吸収極大が約20%増大していた. チロシンが1残基ふえたことによる吸収増大は6%にすぎないので, このHbMにみられた吸収増大はヘムの変化によるものと考えられた. CDでは, α鎖異常のHbM Iwate(α F8His→Tyr),HbM Boston(α E7His→Tyr)とβ鎖異常のHbM Hyde Park(β F8His→Tyr),HbM Saskatoon(β E7HisーTyr)及びHbM Milwaukeeとの間に大きな相違がみられた. 2.共鳴ラマンスペクトル:振動スペクトルが分子構造に鋭敏であるので, ラマン散乱は赤外吸収同様, 分子の構造を調べるのによく用いられる. Soret帯付近のレーザー光が励起したHbMのラマンスペクトルから,ヘムとHis, 置換したTyrとの関係が分かりつつある.
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