研究概要 |
肝臓移植は肝癌, 肝硬変, 酵素欠損症及びその他の難病性肝疾患の治療法として有力視されており, わが国でもその実施の機運が高まりつつある. 本年度の研究予定は正常及び無アルブミンラットの肝を相互移植し, 誘起される血液生化学的変化及び肝腎代謝輸送機能を動的に解析し, 肝移植に伴う医学的問題点を明らかにする事であった. 本研究過程で明らかに出来た点は 1)無アルブミンラットに正常ラット肝を移植後, 血中アルブミン, リポプロテイン及び総蛋白量の経時的変化を解析したところ, 何れも極めて短時間で正常化することが判明した. 2)この際, ビリルビン, Bromosulfophthalein (BSP),Indocyanine green (ICG)及び胆汁酸等の経肝細胞輸送能及びグルタチオン解毒代謝輸送動態が正常に発現することが判明した. 3)正常ラットに無アルブミン血ラット肝を移植下群では, 血中アルブミンが速やかに低下し, リポプロテインの増加により高脂血症が発現することが判明した. この様相はネフローゼ症候群のそれに極めて類似しており, 無アルブミンラット同様にアルブミンの輸液により正常化する. 4)上記の移植手術が失敗し, 多臓器不全(MOF)に移行した例が幾つかあるが, その殆どは手術経過時間が延長した際に認められた. このグラフト機能不全機構を知る目的で, 種々の解析を行ったところ, 本病因が肝虚血障害よりも消化管の血行不全によるものであることが判明した. 5)本病態ラットに, 極めて長い血中半減期を有し, 組織障害部位に選択的に濃度動員されるSOD誘導体を投与したところ, 病態の著しい改善が見られ, 肝機能が改善することが判明した. これらの所見から, 移植病態に活性酸素分子種による酸素毒性が関与することが示唆された.
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