研究概要 |
昭和62年度はヒト抗セルトリ細胞自己抗体に関する研究を中心に行い, その概要が明らかになった. 即ち, 抗セルトリ細胞自己抗体の臓器特異性に関しては, 睾丸精細管内セルトリ細胞の胞体に強く結合する他, 全身臓器の中では, 耳下腺導管上皮や下垂体好酸性細胞胞体に明瞭な結合能を有しておりいずれも自己免疫性疾患の標的組織として知られているものだけに, セルトリ細胞が睾丸組織における自己免疫反応の標的細胞として, 実際にヒトの病態で関与している可能性が高いと考えられた. またヒト抗セルトリ細胞自己抗体の臓器特異性は, 抗セルトリ細胞単クローン抗体(TMー1)と殆んど一致したことより, このTMー1と基底膜に対する単クローン抗体(TMー2)との同時投与により, ヒト特発性精子受成障害に類似の病変を誘導しうる事を考え合わせると, ヒト抗セルトリ細胞自己抗体が, 動物実験におけるTMー1と同様の機序で, ヒト特発性精子形成障害に関与しているものと考えられた. 一方, ヒト抗セルトリ細胞自己抗体の主な免疫グロブリンサブクラスはすべての症例においてIgMであり, その出現率は, 正常成人及び男性不妊娠患者間で有意差なく, 約2.3〜9.3%であった. 以上の所見より, 血清中に特発性精子形成障害の自己免疫要因としてセルトリ細胞はその標的となりうるが, 疾病成立の条件としては, この自己抗体がbarrierとしての精細管基底膜の透過性異常に起因して, 標的細胞であるセルトリ細胞に到達しうるべき病態の方が重要であることが判明した. 現在, その精細管基底膜のbarrier機構に揺さぶりを与える因子としてヒト抗基底膜自己倚抗体や薬剤. 循環障害などの関与を検索中である.
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