研究概要 |
S100陽性Tリンパ球のフェノタイプを2重染色法によって分析したところ, CD3^+,4^-,8^+で, ConA, PHA刺激にてILー2リセプターを発現し, HLAーDR抗原陽性となるT細胞である事が確認された(Virchows Arch B 1987). さらに正常人ではSー100陽性Tリンパ球は1〜10%のリンパ球に相当し, 進行癌患者で特異的に, しかも著しく減少している事を示した(Blood 1987). さらにSー100陽性Tリンパ球由来の白血病, 悪性リンパ腫の存在を発見した. この症例は著明な脾腫と白血球増多を特徴とし, きわめて急性の経過をとり死亡したもので, 腫瘍細胞はCD3^+,4^-,8^+のT細胞で, 細胞質内にS100b蛋白を含有し, T細胞抗原リセプターβ鎖遺伝子の再構成を確認した. (Blood 1988)この症例と, 以前に発表されている類似例をもとに, 新しいT細胞性悪性腫瘍の1疾患概念としてSー100陽性T細胞白血病, リンパ腫という概念を提唱した(Blood 1987). さらにこのS100陽性T白血病細胞が, MHCに拘束されない非特異的細胞障害活性を示すことを明らかにした(第46回日本癌学会総会). さらにこのS100陽性白血病細胞はα1β鎖T細胞抗原リセプターを欠損し, おそらくα/β鎖を発現している事が判明した(投稿中). 正常S100陽性Tリンパ球はα/β鎖を持ち, 非特異的細胞障害能はないが, 抗CD3モノクローナル抗体で刺激するとNK細胞様にK562などの標適細胞と結合することが判明した(投稿中). 以上の結果はS100陽性Tリンパ球が細胞障害性T細胞(CTL)かあるいは, その前駆細胞である事を強く示唆するものである. さらに現在, ヒトのアロキラーT細胞を樹立しているが, この中にS100蛋白を含むアロキラーT細胞株が見い出された(未発表). このS100陽性アロキラーT細胞の性状について現在継続検討中で, ヒトのS100陽性T細胞が特異なCTLか, その前駆細胞であるという事が明らかになりつつある.
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