脳血管性痴呆モデルの開発とその病因・予防に関する研究

1988 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 62480142
• 研究機関: 島根医科大学
• 研究代表者: 家森 幸男 島根医科大学, 医学部, 教授 (80025600)
• 研究分担者: 真能 正幸 島根医科大学, 医学部, 助手 (10183956) ; 奈良 安雄 島根医科大学, 医学部, 助手 (80116417) ; 堀江 良一 島根医科大学, 医学部, 助教授 (60127529)
• キーワード: 脳血管性痴呆 / 脳血栓症 / 血小板凝集 / 脳卒中易発症ラット / 高血圧 / 海綿状脳卒中

研究概要

脳血管性痴呆のモデルとして、脳卒中易発症ラットSHRSPと血小板機能亢進を伴うOM/N系の交配で得たF_2のうち、高血圧はSHRSP程重症ではないが血小板機能亢進を伴うラットより継代をつづけ、SPOM系を得、初年度に引き続き自然死例の病理学的研究をすると共に、一部屠殺例については脳を灌流固定し電顕的に観察した結果、痴呆の原因となると考えられる多発性小梗塞の病理学的発生機序が次第に明らかになりつつある。即ち、脳動脈の穿通枝では長期間高血圧が持続すると局所の栄養障害ないし低酸素障害のためか中膜外周より平滑筋の変性と限局性壊死が生じ、これが中膜全層に波及すると血管内腔の内皮表層にマクロファージ(Mφ)が付着し、偽足を出して内皮の接合部に侵入し、ついに内皮下に入り込むと共に血漿成分が浸出し、フィブリンが沈着し、さらにMφはこのフィブリンを貧食し、scavengerとして働き、内腔に戻る像も見られた。フィブリンの沈着と共にフィブリノイド壊死が進展し、内膜下、中膜におよび壁は肥厚し、内腔の狭窄は進み、ついに血小板血栓を伴って閉塞する。このように穿通枝動脈の多発性血栓の成立過程で、(1)血管壁の局所栄養障害、(2)Mφの侵入、(3)血漿成分浸潤、(4)壁肥厚、(5)血栓形成というプロセスの全容が明らかになった。この事実からも脳血管性痴呆の原因となる多発性血栓の予防のためには最初の穿通枝動脈壁の局所栄養障害のひきがねとなる高血圧を抑制して局所脳血流を保ち、一方では栄養状況を全身的にも良好に保つことが、理論的にも重要であることがわかった。他方、このモデルの行動観察を続け、SPOM系では決して大発作の見られぬところから、脳卒中というよりも臨床的にも脳血管性痴呆により近いことを明らかにした。さらに痴呆のより客観的な評価法の開発につとめ、アボイダンステストの前提となる簡易な痛覚テスト法を完成した。

研究成果

• [文献書誌] Yamori,Y.: Jan.J.Hypertension. 10. 95-111 (1988)
• [文献書誌] Yamori,Y.;Igawa, T.;Kanbe,T.;Nara,Y.;Tagami,M.: Heart and Vessels. 4. 94-99 (1988)
• [文献書誌] Tagami,M.;Mano,M.;Nara,Y.;Yamori,Y.: Clin.Exp.Hypertension. 10. 530-530 (1988)
• [文献書誌] Mano,M.;Nara,Y.;Sawamura,M.;Horie,R.;Yamori,Y.: Jpn.Heart J.29. 593-593 (1988)
• [文献書誌] Nabika,T.;Chaldakov,G.N.;Nara,Y.;Endo,J.;Yamori,Y.: Exp.Cell Res.178. 358-368 (1988)
• [文献書誌] Ikeda,K.;Nara,Y.;Yamori,Y.: Jpn.Heart J.29. 583-583 (1988)
• [文献書誌] Y.Yamori;T.Strasser: "New Horizons in Preventing Cardiovascular Diseases" Elsevier., 1-281 (1989)
• [文献書誌] Yamori,Y.;Nara,Y.;Shimizu,S.;Mano,M.;Nabika,T.: "Common cellular machanisms in the development of hypertension and atherosclerosis.In"Atherosclerosis Reviews"" Raven Press., 233-246 (1989)