前年度に解析を終えたSSPEウイルス山形1株のH遺伝子の塩基配列にもとづき、HA蛋白のエピトープ解析を行った。HA蛋白の10箇所の部位に対する合成ペプチドを作成し、これに対する抗血清をウサギで作成した。合成ペプチドはN末端の疎水性アミノ酸配列(TO9)を除けば、いずれも抗原性が強く、高い抗体価の血清が得られた。RIPおよびFAでHA蛋白との反応をみたところ、両者の成績は必ずしも一致しなかった。また、これらの抗血清はいずれもウイルス中和能を示さなかった。さらに、中和活性を持つマウスモノクローナル抗体が、これらの合成ペプチドと反応しなかったことから、中和に関係するエピトープは糖鎖の附加および蛋白の高次構造に異存していると考えられた。 これらの合成ペプチドを抗原としてELISA法によりSSPE患者における抗体産生を調べた。その結果、SSPE患者、正常児血清ともに半数の抗原に対してはほとんど反応しなかったが、TO9およびBTXペプチドに対する反応性で5SPE患者と正常児間に有意差がみられた。これらペプチドに対する抗体測定はSSPE診断の補助に役立つことが期待される。 このBTXはαニューロトキシンの一部と高い相周性を有することも明らかにされた。この部分はアセチルコリンレセプターとの結合に関与するところであることから、BTXに対する免疫反応がSSPE発病機構に関わる可能性も考えられる。
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