上記の研究課題に対し、以下の結果を得た。 1)単純ヘルペスウイルス(HSV)2型のDNA複製には細胞由来のDNAトポイソメラーゼII(TopoII)が関与していることが強く示唆された。細胞由来のTopoIもHSVの複製に関与していることが示されたが、それは転写のレベルであると思われる。permeable細胞を用いた実験から、DNA鎖の延長反応にはTopoI、IIともに関与していないことが示唆された。 2)ウイルスDNAポリメラーゼに変異をもつ株を分離し、その変異DNAポリメラーゼの性状を野生株のものと比較した。三者間で3′→5′エキソヌクレアーゼ/DNAポリメラーゼ活性比に顕著な差は認められなかった。アフィジコリン耐性(Aph^r)、ホスホノ酢酸耐性(pAA^r)株が示すmutator、antimutator形質はポリメラーゼ分子の基質特異性の変化と関係しているように思われる。 3)今回決定したHSV2型ウイルスDNAポリメラーゼのアミノ酸配列と、HSV1型を始めとする他のウイルスDNAポリメラーゼとの比較、及び突然変異株の変異部位の同定から1240個のアミノ酸のうち700番から900番の領域が活性中心の形成に重要な役割を果たしていることが示唆された。 4)ミカン科の植物より分離されたアクリドンアルカロイドの一種citrucinine-1がウイルスDNA合成を特異的に阻害することを見い出した。その標的は現在のところ明らかではないが、状況的な証拠からは、ヌクレオチド代謝に重要な役割をもつリボヌクレオチド還元酵素であることが推定される。
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