クラスII主要組織適合抗原(Ia抗原)は、T細胞の抗原認識に重要な役割をになっていることが明らかにされている。しかしIa抗原の生体内での発現が個体発生の過程でT細胞の分化・成熟にどのような役割を果たしているか不明の点が多い。本研究では上記の問題を解決し、Ia抗原の生物学的役割をより明らかにすめためにまず、In vitroの系においてIa抗原の発現調節可能なanti-sense RNAのシステムを確立する。次にこのanti-sense RNA遺伝子をマウスの受精卵に導入してIa抗原の発現が抑制されているトランスジェニックマウスを確立する。このマウスの免疫異常を検索することにより上記の疑問を解決しようと試みた。そして、過去2年間の研究の結果、以下の点まで明らかにすることが出来た。 1.I-Aβ鎖の5'UT部100塩基をメタロチオネイン遺伝子にanti-senseの向きに組み換えたDNAをB細胞リンフォーマに遺伝子導入することによりその細胞上のI-A分子の発現を調節することが出来た。 2.より効率良くI-A分子の発現を調節する遺伝子の部位を検索した結果、5'UTと3'UTでは同程度の調節効果が得られたがβ_1ドメイン部を用いてもその効果が見られなかった。 3.In vitroの系で調節効果の見られた5'UT anti-sense DNAをC57BL/6XSJLF_1マウスの受精卵に導入してトランスジェニックマウスを確立した。 4.作製した13系統のトランスジェニックマウスのうちで、3系統のマウス由来の脾細胞においてI-A分子の発現低下が見られた。 現在上述のマウスの免疫異常を検索するとともに、新たに、In vitroの系で効果の見られた3'UT部と5'UT部のanti-sense遺伝子を同時にもつトランスジェニックマウスを作製中である。
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