研究概要 |
メチル水銀によるミトコンドリア(Mt)のエネルギー代謝系に関する阻害を追究し, 神経細胞毒性の発現に対する関与について検討した. 塩化メチル水銀(CH_3HgCl)を, ウィスター系雄性ラット7週令に1日当り体重1Kg当りHgとして8.0mgを経口投写することによって実験的水俣病を発症させた. この間の投与日数にともなうラットの体重変化に基づいてメチル水銀(MM)中毒の状態が, 発症前段階ならびに発症後の状態を示す各中毒段階のモデルラットを作成した. 各中毒モデル段階のモデルラットの大脳, 小脳および肝臓からMtをOZAWA法により分離し, Mtに各種呼吸基質を添加して生化学用溶存酸素計を使用し, state3呼吸およびstate4呼吸の呼吸活性を測定して呼吸制禦比を求め, 各中毒段階におけるMMの影響について比較検討した. 大脳および小脳のMtの電子伝達系において一連の機能低下をおこす呼吸阻害部位はTCA cycle以降であることが推定された. このことは, 正常ラットから分離したMtにMMをin vitroで添加した場分の阻害部位と同様であった. しかし, Mt分画中のMM濃度を測定した結果, MMがMtにin vitroで添加された場合と経口的に投与された場分とでは, MMの阻害濃度が異なることが示された. さらに, 二波長令光光度計(日立ー557型)を使用し, 標品のチトクロムC(Cyt C)を用いて差スペクトル法測定を行なったところ, Cyt CにCH_3HgClを添加することによりCyt Cの環元速度が遅くなること, 波長280〜300nmでCyt Cの酸化型/環元型の差スペクトルが, 対照試料が負にシフトするのに対したCH_3HgClが添加されたCyt Cは正にシフトすること等, MMがMf呼吸鎖成分のコンフォメーションを変化させることが推察された. なお,ここで, Mt試料の分光学的測定に適用できるMtの分離調製法を検討し, 各中毒段階において分離されたMt中のCyt Cについても同様なことが示されるかどうかについて追究中である.
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