研究概要 |
ラットに1回経口投与されたメチル水銀(MM)の血中及び臓器中における経時的な推移(投与後1,6,12,24,48時間)とMMが赤血球から、肝、腎および脳に移行し蓄積する過程に関して追究を行った。ラットの場合、血中のMMの大部分がヘモグロビン(Hb)と強固に結合していたが、Hb分画中に存在する2〜5%の遊離した状態の非結合型MMが血しょう中へ解離し、脳内へ緩慢に移行し蓄積することが示唆された。さらに、血中のMMのグルタチオン(GSH)による透析の結果から、結合型MMは、GSHのSH基の作用により、GSH-MM複合体を形成し、臓器間を移行する可能性が考えられた。加えて、肝、腎および血液中のMMの分布の経時的推移より、肝で形成されたGSH-MM複合体はその大部分が腎で分解され、システイン(Cys)-MMの形で赤血球および他臓器に移行し蓄積することも考えられた。 また、MMのミトコンドリア(Mt)に対する影響を塩化メチル水銀(MMC)を用いてin vitroおよびin vivoで追究した。Laiら(1977)の方法に従いラット全脳からnon-synapticなMt分画およびシナプトソ-プ(Syn)分画を調製し呼吸活性および電子伝達系の(酸化-還元)差スペクトルを測定した。in vitroでstate3呼吸は約60nmol/mg proteinのMMCにより完全に阻害されたが、8.3nmol/mg proteinのL-CysあるいはD-Cysの添加により約60%の呼吸回復を示した。さらに、差スペクトルの測定から、同量のMMCによりすべて消失したcytochrome系の吸収ピ-クが、L-Cysの添加によりほぼ対照程度まで回復した。In vitroにおけるMtの呼吸阻害は電子伝達系に対する阻害であることが確認された。これに対し、in vivoでは対照群とMMC投与群との間の差スペクトルの差は認められなかったが、MMC投与群のSyn分画の呼吸活性は対照群に比べて、state4呼吸が上昇し、過酸化脂質量も増加していた。このことから、MMCはin vivoにおいて神経終末部になんらかの影響を及ぼしていると考えられた。
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