研究概要 |
n-ヘキサンは生体内で代謝されて、神経毒性の強い2、5-ヘキサンジオンが生成することが知られている。我が国でも、今年度からn-ヘキサンの曝露の指標として、尿中2、5-ヘキサンジオンが測定されることになった。しかし、最近,尿中に排泄される2、5-ヘキサンジオン自体の量は少なく、大部分は4.5-ジハイドロキシヘキサノンがグルクロン酸抱合されて排泄されること、酸による前処理によって、2、5-ヘキサンジオンが生成することが明らかにされた。そこで、従来のn-ヘキサンの尿中代謝物の測定法の再検討を行い、以下のことを明らかにした。1)酸による前処理時のpHによって2、5-ヘキサンジオンの量が著しく変化し、pHが大きいと2、5-ジメチルフランが多く生成し、pHが小さいと2、5-ヘキサンジオンが多く生成する。そのために、従来のpH2では不安定で、pH1以下にすると安定した値が得られること、n-ヘキサンに曝露されていない人の尿中にも2、5-ヘキサンジオンが検出さたという報告もあるが、ガスクロの適切なカラムの選択によって,正常者の尿中にはほとんど検出されないこと、我々の方法による尿中2.5-ヘキサンジオン量はn-ヘキサン曝露量とよく相関することを明らかにした。2)有機溶剤中毒時の中枢神経の影響の評価法について、中枢神経毒性の知られているトルエンを用いて、その曝露による神経特異蛋白γ-エノラ-ゼ、S-100蛋白、クレアチンキナ-ゼの変化を大脳、小脳、脳幹部で検討し、これらが中枢神経の変化の指標として有用であることを示した。3)新しい有機溶剤曝露装置については、n-ヘキサンとトルエンでは所期の目的を十分に達成できたが、MEKでは部品の一部に予期しなかったトラブルが生じ、n-ヘキサンとMEKの長期混合曝露実験は余儀なく中断したが、その原因の究明と装置の改良によって実験を再開し、現在実験を継続中である。
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