研究概要 |
1.最近約10年間に行った法医解剖の中で, 脳幹を含む全脳髄の不可逆性の機能停止で人工呼吸器の酸素供給によって心臓が搏動し「脳死」であった62症例及び脳幹の生命維持機構の損傷はまぬがれたものの, 大脳皮質, 白質, 大脳核などの不可逆性損傷を受け「植物状態」であった個々の事例について肉眼的及び病理組織学的検討を行い, 数々の知見を得た. すなわち, 脳死例では, レスピレーター脳の典型的な所見が脳死の期間が5〜6時間以上の症例ですでに大脳, 小脳, 脳幹部ともにみられた. 今回, 特に延髄及び上部頸髄に注目したが, いずれの部位にも神経細胞の著明な萎縮・濃染の所見が脳死期間の比較的短い事例においても得られた. 呼吸中枢である延髄のこのような所見は脳死における自発呼吸の消失を形態学的に理解する上で一助となるものと考えられる. その他, 臓器移植の対象となる脳死例の心臓・肝臓・腎臓などの組織所見について新たな知見を得, 昨年度の国内学会(第71次日本法医学会総会), 国際学会(第11回国際法医学会:バンクーバー)及び第9回インドネシア病理学会(ジャカルタ)で報告した. 2.家兎を用いて「脳死」の動物実験を行った. 家兎を固定, 麻酔し, 人工呼吸器を装着した. 一側の頭頂葉及び脳幹部の硬膜外に小型のバルーンを挿入し徐々に頭蓋内圧を上昇させて脳圧迫・脳浮腫を起こさせた. ポリグラフを用いて, 常時, 心電図, 脳波を記録した. 自発呼吸の持続的停止, 脳波の平担化を惹起させ, 人工呼吸器を用いて可及的脳死の状態を持続させる実験を行った. レスピレーター脳の病理組織所見ならびに心臓・肝臓・腎臓などの病理組織所見をヒトの脳死例と比較検討した. 未だヒトの脳死例のように長期間の脳死状態を起させるまでには到達していない. 死後の脳組織の変化(自己融解)も検討した.
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