1.移植の対象となる臓器が脳死経過中に人工呼吸器の使用により完全に保護され得るか否かを知る目的で病理組織所見を検討した。検査材料は頭部外傷により6時間〜40日の脳死期間を経過した症例で、死後解剖開始までの時間が可及的短い(2時間30分〜20時間)14歳〜92歳の20例の心臓・肝臓・腎臟及び膵臓である。心臓では、心外膜下脂肪織は少なく、個々の心筋線維はやせ細り、核も濃縮状で大きさが不揃いである。心筋線維の配列は乱れ迂曲し、鬆粗な結合組織が目立ち、横紋は不明瞭である。心筋線の著明な断裂は経過の短い成人男性の症例にみられた。肝臓では、低酸素性変性として、肝細胞の空胞変性を認めることが多い。小葉の中心帯から中間帯にかけて、肝細胞内に円形の小空胞が多数出現している。小葉周辺帯の肝細胞は健在である。空胞は一見空虚にみえるが、中に薄い均質または絮状の物質、すなわち類洞内の血漿成分を入れている。腎臟では、尿細管、特に遠位尿細管において、上皮の萎縮・核の濃染がみられ、内腔の狭小化とともに、上皮の基底膜からの離解が著明である。膵臓では、死後解剖開始まで短時間例においても、死後の自己消化の所見がみられた。 2.家兎を用いて「脳死」の動物実験を行った。家兎を固定、麻酔し、人工呼吸器を装着した。一側の頭頂葉及び脳幹部の硬膜外に小型のバルーンを挿入し徐々に頭蓋内圧を上昇させて脳圧迫・脳浮腫を起こさせた。ポリグラフを用いて、常時、心電図、脳波を記録した。自発呼吸の持続的停止、脳波の平担化を葱起させ、人工呼吸器を用いて可及的脳死の状態を持続させる実験を行った。レスピレーター脳の病理組織所見ならびに心臓・肝臓・腎臟などの病理組織所見をヒトの脳死例と比較検討した。末だヒトの脳死例のように長期間の脳死状態を起させるまでには到達していない。死後の脳組織の変化(自己融解)も検討した。
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