研究概要 |
本研究の目的は肺実質傷害、線維化と気腫化、に関する組織の細胞相互関係、炎症担当細胞の機能を明らかにし、肺組織傷害のメカニズムを解明することである。方法:ヒトの肺組織傷害の動物実験モデルとしてハムスターのブレオマイシン(BLM)肺傷害を用い、(1)動物モデルの妥当性。(2)組織の細胞相互関係。(3)肺組織のビタミンE(VE)の影響。(4)外来性豚膵エラスターゼ(PPE)の影響。(5)タバコ煙暴露の影響。(6)肺組織の炎症担当細胞の機能について検討した。結果:(1)ハムスターの肺組織の抗酸化酵素はヒトに類似し、BLM投与の肺組織の病理像はヒトの特発性肺線維症に近似し、疾患モデルとして妥当である。(2)BLM処置後のII型上皮は肺胞マクロファージ(Mcf)に対する走化性因子を放出し、好中球の活性化能を増強した。(3)VE過剰投与ではBLM肺線維症を抑制できず、VE欠乏状態でのBLM投与は初期に高度の線維化、後期には気腫性病変を惹起した。BLMによる肺線維化にはHydrogen peroxideが関与し、BLM投与後の気腫化には初期の一重項酸素による高度の組織傷害と、これにつづく、peroxiradical,hydroperoxiradical,及びsuperoxideの発生が関与する。(4)PPEの投与は筋注部位に高度の炎症性病変を惹起し、血清中エラスターゼ活性を上昇させ、線維化を抑制する。(5)タバコ煙暴露とBLM投与は気腫性肺組織傷害を惹起した。喫煙による肺胞腔内のMcfの増加、BLMによる好中球の増加と活性化がその主因である。(6)喫煙暴露、BLM投与による泡沫Mcfはactivated Mcfであり、McfはIL-1以外のFAFを産生する。(7)慢性炎症惹起物質であるBLMは、急性炎症惹起物質であるproteose peptoneよりも肺胞腔内の好中球の粘着能、superoxide産生能を増強する。まとめ:肺組織傷害は同一の慢性炎症性刺激物質に、他の複合的な刺激の種類と内因の変化により気腫性傷害にも線維性傷害にも進展し得る。内因、外因の種類と他臓器の炎症との相関が重要である。
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