神経組織の老化の原因の一つには内因性毒性物質が関与している可能性がある。そのうち脳内に大量に含まれるスフィンゴ脂質の脂肪酸のはずれたリゾスフィング脂質に注目してその測定法、代謝、組織の障害を検討した。セレブロシドのリゾ型であるサイコシンはそれが第一級アミノ基を有しているため蛍光物質が容易に結合し、高感度の測定ができることを利用して、液体クロマトグラフィーによる測定法を確立した。その結果、サイコシンは正常マウスで加齢により増加することが判明した。 同様の方法でセラミドのリゾ型であるスフィンゴシンが遊離の形で正常組織内に存在することを世界で初めて報告した。この物質はあらゆる組織に存在するが、濃度は肺に多いことが判明した。スフィンゴシンのうちd18:1が多く、その1/2〜1/5に相当してd18:0がみられた。又、中枢神経ではd20:1がd18:0と同量程度みられた。スフィンゴシンの加齢による変化は末梢神経で生営30日までは変化があまりみられなかった。今後、老化マウスを用いて検討する予定である。次にサイコシンの毒性を検討するためサイコシンの蓄積するtwitcherマウスを用いて実験を行ったが、サイコシンはミエリン中に大量の蓄積があることが判明した。そして、twitcherマウスではプロテオリピドプロティンのアシル化がin vitro、in vivoで阻害されていることを見出した。一方、スフィンゴシンおよびサイコシンの代謝を検討したところ、スフィンゴシンは容易にアシル化をうけるが、サイコシンの合成は非常に緩徐であることが判明した。スルファチドのリゾ型であるリゾスルファチドが正常組織に存在し、チトクロームC酸化酵素を阻害することを証明した。今後さらにこれらのリゾスフィンゴ脂質の主体での役割や、老化動物モデルを用いての代謝を検討する予定である。
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