研究概要 |
神経成長因子(NGF)は脳内大細胞性コリン作動性ニューロンの神経栄養因子と考えられている. この神経路はアルツハイマー痴呆症患者で顕著な障害が認められ, 記憶・学習能と関連している. 従って, 脳内のNGF合成を高めることができればこの神経路を賦活化することができるかもしれない. この目的のために, 本年は以下の実験を行い, 興味ある知見を得た. 1.NGF合成誘導活性ー構造相関:生後1週マウス脳から培養したアストログリア細胞はNGFを分泌する. しかし, 細胞を静止期に導入するとNGFの合成・分泌は著しく低下する. この条件下で神経伝達物質であるカテコールアミン(CA)を培養液に添加するとNGFの合成レベルが著しく高まる. CAをNGF合成促進薬として応用すべく, 構造と活性相関を調べたところ, カテコール環構造が必須であること, 側鎖に飽和アルキル基をもつ化合物が強い活性を発現することがわかった. 2.CA誘導体に対するアストログリア細胞の反応性:(1)で用いたよりも幼若な2日齢マウス脳の新皮貭, 海馬, 線状体から培養したアストログリア細胞にCA類およびその誘導体ホモカテコール(HC)を種々の濃度で添加してNGF合成促進能を調べた. その結果, 10μMという低濃度でも促進効果があること, 線状体アストロは皮貭, 海馬由来アストロより反応性が低いことがわかった. つまり, CAは幼若マウスでより強く, しかも, 部位によって異なる作用をひき起こすことがわかった. 3.脳組織片のCAに対する反応:培養下に移した純粋アストログリア細胞で見られるNGF合成促進作用が, 神経細胞, アストログリア細胞などを生体内と同じ状態に保持された脳組織片でも見られるかどうかを培養下で調べた. その結果, 組織片の約半数で, NGF合成が促進された. この比率は, CAの作用が脳の部位よって異なることを示唆.
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