心拍不整に関する心筋の外向き電流、特にこれまではプルキン工線維に特有で心室筋では未発達ないし殆んど活性化がみられないとされていた一過性外向き電流(Ito)の性質と機能的役割りを検討した。家兎心臓をコラゲナーゼ処理により単一心筋を分離し、パッチ・クランプ法を適用して膜電流を記録・解析した。家兎単離心筋の活動電位は早い立上り相につづき、小さな第1相とノッチが認められた。膜電位固定下では-60mVより深い保持電位からの脱分極にて-20mVよりプラス側でItoが活性化され、これが心室筋活動電位の第1相とノッチの形成に寄与していることを明らかにした。次いで、このItoはCa^<2+>電流抑制時にもみられるところからCa^<2+>非感受性であること、このものは4-アミノピリジン(4-AP)に感受性を持ち。かつ電位依存性の不活性化の性質を有して、その不活性化からの回復も遅く時定数が2秒以上となることを明らかにした。このため、連結期の短い期外収縮ではIto成分の回復が遅いのに比べ、Ca^<2+>電流は比較的早く回復して内向き電流が増加して、プラトー相の増高や活動電位の延長などをもたらすことを明らかにした。さらにCa^<2+>非感受性Ito成分の電位及び時間依存性の活性化・不活性化の性質と動態を詳しく解析するとともに、そのイオン担体は主にK^+で一部Na^+と寄与することを見出した。また、このItoにはもう一つCa^<2+>感受性成分があることをカフェイン・細胞内EGTA投入、リヤノジンやSr^<2+>の投与などから解明し、かつこの成分が高頻拍時に増強することを初めて明らかにした。このことより、Ca^<2+>非感受性Itoは徐拍時、Ca^<2+>感受性Itoは高頻拍時に心室筋の再分極相に寄与していることを明らかにした。徐拍から突然高頻拍になると活動電位の交代現象がみられるが、これにもCa^<2+>感受性及び非感受性ItoがCa^<2+>電流とともに関与していることを見出し報告した。このItoの単一チャンネル電流の記録を試みたが、成功せず今後の検討とした。
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