研究概要 |
本年度は冠動脈の発生機序を明らかにするために次の3つの点に焦点をしぼって研究を進め見るべき成果が得られた. 1.冠動脈の攣縮は中年以降の男性に圧倒的に多く認められ, 動脈硬化との関連が注目されている. そこで冠攣縮と冠動脈硬化との関連を明らかにするために血管内皮細胞が正常な場合は血管を拡張し, 血管内皮が傷害されている場合は血管を拡張するアセチルコリンを若年者ならびに中高年者の冠動脈内に注入し, 冠動脈の反応を冠動脈造影法により我々が開発したコンピュータを用いて定量的に調べた. 中高年者では大多数の症例でアセチルコリンにより冠動脈は収縮したが, 若年者ではむしろ冠動脈は拡張することが明らかとなった. 動脈硬化性狭窄のある冠動脈は全例収縮した. このことはたとえ冠動脈造影上, 冠動脈は正常に見えてもアセチルコリンにより収縮すれば動脈硬化が存在することを意味する. 異型狭心症の患者はアセチルコリンにより全例冠動脈が収縮し53例中47例(89%)において冠動脈の攣縮を来たした. 以上より冠動脈の攣縮と動脈硬化とは密接な関連があり, 異型狭心症の患者は全例冠動脈硬化を有すると結論される. 2.人屍体冠動脈は灌流液のMgを増加させることにより拡張することが明らかにされた. このMgの冠動脈拡張作用はニトログリセリンやCa拮抗剤のそれと異なった機序で行われることが示唆された. 3.冠動脈攣縮のある患者では体内Mgが減少している例が多いことが明らかにされた. 24時Mg体内停滞率は異型狭心症例では61.7±20.9%であったのに対し対照例では31.2±13.5%(P<0.01)であった. したがってMgの代謝もまた冠動脈の攣縮と関連していることが明らかにされた.
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