研究概要 |
甲状腺細胞膜アデニル酸シクラーゼ系(AC系)の研究で,甲状腺細胞にはα受容体が存在し,α受容体を介してAC系を抑制し,またこれは抑制性GTP結合蛋白質(Ni)を介して抑制することを明らかにした. TSH受容体抗体とAC系の抑制,NsまたはNiとの関係は明らかではないが,少なくとも萎縮性甲状腺炎IgGはTSH受容体レベルでTSH作用を抑制し,この抑制にはNi蛋白質は関与していないことが明らかになった. 甲状腺萎縮の病因としてAC系以外の病因,すなわちPエリスポリス,^3Hサイミジンやヨードの取り込みへの影響については研究を進めている. 臨床的には2つの重要な事実を明らかにした. 1つはTSH受容体ブロッキング抗体を有する母親から生まれた一過性甲状腺機能低下症の全国調査を行い,これらの症例の一部に中等度から高度の精神運動発達遅滞が認められる点である. すなわち全国から16家系23例の症例が集計されたが,内5例に精神運動発達遅滞がみられ,全世界で行われているクレチン症スクリーニングで発見された児の予後と異っている. これらの母親,児のTSH受容体抗体活性,妊娠中の甲状腺機能,児の治療開始までの日令,治療置などを比較した所,母親の甲状腺機能のみ両群に差を認めた. すなわち発達の遅れを伴っている児の母親は妊娠中末治療か,薬を減量ないし中止し,妊娠中機能低下の状態にあった. 甲状腺ホルモンが胎盤を通過しないことから,胎盤形成前の甲状腺ホルモンの通過性,児の神経分化に及ぼす影響など示唆に富む事実である, 第2の点はバセドウ病の母親から生まれる新生児一過性低T_4血症の新しい病態を見い出した点である. TBII,TSAb活性を有する母親から生まれる児は新生児パセドウ病を発症するが,妊娠中の甲状腺機能コントロールが悪く,TBII活性の有無にかかわらず,TSAb活性の低い母親から本症は生まれている. この児の予後,病因を更に追求する予定である.
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