研究概要 |
成人T細胞白血病ウイルス(HTLVーI)の母子感染の頻度と成立時期を検討するために, 1965年〜1983年の15年間にわたって沖縄の母子311組から縦断的に採取・保存された血清2013検体のHTLVーI抗体を測定し, 以下の結果を得た. (1)母親と子どものHTLVーI抗体陽性率はそれぞれ20.9%と3.2%で,その間に大きな差がある. (2)抗体陽性の子どもは,全て抗体陽性の母親から出生していた. 観察期間中(子ども3〜18歳),抗体陽転が確認された子どもはなかった. (3)抗体陽性の母親から生まれた子どもの15.4%が抗体陽性であった. 以上の結果から,HTLVーIの母子感染は,15%の頻度で3歳までに成立し,それ以降は少なくとも18歳までは新たな母子感染はおこらないことが示された(Int.J.Cancer,40;755ー757). 現在,いくつかの施設で,抗体陽性の母親から出生した子どもの追跡調査が行われているが,私たちの研究から,生後3年まで追跡を行うことにより,HTLVーI感染の18歳までの実態が解明されることになる. 一方,母子間の抗体陽性率の大きな差が,どのような機序で生じているかは,今後解決されなければならない問題である. また,この研究におけるHTLVーI抗体陽性者の抗体価を測定し,HTLVーI抗体価が長期間一定レベルで維持されることを示した(第35回日本ウイルス学会総会,1987年11月).
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