精神分裂病の脳生化学的解析とその治療に関する研究

1989 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 62480243
• 研究機関: 東京医科歯科大学
• 研究代表者: 融 道男 東京医科歯科大学, 医学部, 教授 (20013972)
• 研究分担者: 車地 暁生 東京医科歯科大学, 医学部, 医員
• キーワード: 慢性分裂病 / カイニン酸受容体 / NMDA受容体 / グルタミン酸 / メタンフェタミン / フェンシクリジン / 前頭前野 / 線条体

研究概要

研究代表者らのグル-プが1983年に見出した慢性分裂病死後脳の前頭前野をはじめとする大脳皮質の^3H-カイニン酸受容体結合の増加は最近イギリスのグル-プにより確認された(Deakinら、1989)。われわれのデ-タでは、内側前頭皮質や眼球運動領野の^3H-カイニン酸特異結合値が脳内各部位のグルタミン酸値と有意な負の相関を示したことから、慢性分裂病にはグルタミン酸の活動低下があることを推測した。動物実験として、ラットを40日間にわたりメタンフェタミン(MAP)あるいはフェンシクリジン(PCP)で飼育し、ふつうの飼料に戻し4日目に脳を取り出した。前頭前野の^3H-カイニン酸特異結合はMAP投与群でP<0、05、PCP群でP<0、001でそれ有意に増加していた。また線条体のグルタミン酸値との間にγ=-0、51、P<0、01で有意な負の相関がみられた。この結果は慢性分裂病死後脳で得られた所見と酷似しており、慢性分裂群におけるグルタミン酸ニュ-ロンの変化が脳内ド-パミンの過剰活動が反復した結果生じたことを示唆している。今年度は更に、死後脳についてグルタミン酸のNMDA受容体を標識する^3H-MK801を用いて特異結合を測定した。大脳皮質13部位と被殻について測定したが、上側頭回、上頭頂小葉、縁上回の3部位で分裂病群の結合値が有意に高く、上側頭回においては非服薬群の値も有意に(P<0、01)高かった。また^3H-MK801特異結合値は、^3H-カイニン酸結合値、^3H-スピペロン結合値(D_2受容体)、チロシン水酸化酸素活性、サブスタンスP値、メチオニンエンケファリン値、コレシストキニン-8値とそれぞれ有意な正の相関を有し、グルタミン酸値と有意な負の相関を示した。この結果は、われわれが以前報告したカイニン酸受容体の所見とよく似ており、慢性分裂病脳におけるグルタミン酸ニュ-ロンのく活動低下を示唆するものと思われる。

研究成果

• [文献書誌] 融道男: "躁うつ病治療薬と神経伝達物質の代謝" 代謝. 26. 345-349 (1989)
• [文献書誌] 融道男: "薬剤による精神症状と対策" 医薬ジャ-ナル. 25. 971-976 (1989)
• [文献書誌] 融道男,竹内潤一: "悪性症候群の診断および発症機序をめぐって" 精神科治療学. 4. 827-835 (1989)
• [文献書誌] 融道男,小林利雄: "ステロイド、降圧剤、睡眠薬によって起こる精神症状" 臨床透析. 5. 1605-1611 (1989)
• [文献書誌] 小林利雄ほか: "Methamphetamine,Phencyclidine慢性投与後のラット脳内神経伝達物質の変化" 神経化学. 28. 140-141 (1989)
• [文献書誌] 融道男: "くすりによる精神症状" SUT Bulletin. 2. 20-26 (1989)
• [文献書誌] 小林利雄ほか: "ヒト死後脳ベンゾジアゼピン受容体に関する研究" 精神薬療基金年報. 20. 113-120 (1989)
• [文献書誌] 融道男: "遅発性ジストニアの薬物療法" 精神科治療学. 4. 528-530 (1989)
• [文献書誌] 融道男: "抑うつと不安の神経伝達物質" 新薬と治療. 39. 17-21 (1989)
• [文献書誌] 融道男: "精神分裂病" Clinical Neuroscience. 8. 72-73 (1989)
• [文献書誌] 融道男: "精神分裂病の神経化学" 精神神経学雑誌. 91. 585-589 (1989)
• [文献書誌] 武藤隆ほか: "わが国における老年期痴呆の疫学調査-長野県下の広域調査を中心に-" 精神神経学雑誌. 91. 783-790 (1989)
• [文献書誌] Kiuchi,Y.et al: "Benzodiazepine receptors increase in post-mortem brain of chronic schizophrenics." Eur.Arch.Psychiatr.Neurol.Sci.239. 71-78 (1989)