ラット機能性甲状腺細胞FRTLー5を用いて、EGFレセプターのEGF結合部位に異常があるが、EGFーRは存在することを明らかにした。また、FRTLー5から8ーazaguanine耐性株を分離し、ヒト細胞と融合した。バセドウ病細胞との融合では、ラットとヒトの分化形質がともに表現された。ヒト線維芽細胞HELとの融合では、甲状腺ホルモンT3、T4が一時的ではあるが産生された。さらに、分化形質を欠く甲状腺未分化癌細胞HTC/C3では、T3、T4の産生はみられなかったが、ヒトサイログロブリン(Tg)が6日以降有意に産生された。 ヒト甲状腺細胞の増殖機構について、各種疾患及び正常部甲状腺細胞を初代培養し、125ーI EGFの結合、EGF及びTSH添加による3ーH thymidine摂取を検討した。正常細胞に比して、分化癌は結合親和性は有意に低値を示し、バセドウ病細胞は親和性、結合部位数ともに低値であった。EGFは正常、癌、良性腫瘍及びバセドウ病のいずれをも増殖的に刺激した。TSHは良性腫瘍のみの増殖を刺激した。親和定数とEGFによる増殖反応の間に有意の逆相関傾向が認められた。癌はこの相関からはずれ、その意義を現在検討中である。 HTC/C3株を樹立しその性状を分析し、更に無血清培養の可能性を検討した。種々の増殖因子単独及び組合せでは増殖がみられず、10%ウシ胎児血清の添加を要した。IGFー1、EGF及びTPAの添加により増殖がみられ、ILー1αは血清による増殖を抑制した。これらの組合せによる影響の意義はなお検討中である。 ILー1αのマウス甲状腺に対する影響を、大量1週間連続投与し30日後に検討した。甲状腺機能は投与中著明に抑制され、終了後回復した。甲状腺の重量、病理組織には著変なかった。30日後、甲状腺のTSHに対する反応性の著明な低下と、下垂体TSH含量の増加が認められた。 以上の成果は、いずれも甲状腺細胞の増殖と分化機能に関する新しい知見であり、今後大きな発展が期待される。
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