研究概要 |
我々の樹立した巨核芽球系白血病細胞培養株(MEGー01)は, 一定の培養条件下で, 種々の分化誘導物質を加えることにより成熟分化を示す. 昭和62年度の研究は, この比較的稀れで, 特異な性格(分化成熟)を有するヒト骨髄巨核球培養株を用いて(1)その産物が細胞の増殖や蛋白合成と深くかかわっているprotooncogeneの発現が分化誘導(phorbol esters)の過程で如何に制御されているのか. (2)分化誘導に於いてひき起こされる遺伝子上の変化が存在するかどうか. (3)分化誘導前・後のmRNAを引き算法により解析し, 細胞増殖・分化過程に関与する物質の同定とその解析の3点を目的に行なった. その結果これまでに, 以下の結果を得た. (1)分化誘導前にはcーmycの強い発現を認めc-fos,c-sisは極めて少量のmRNAの存在を認めたが, c-abl,N-myc,L-myc等は発現していなかった. phorbol esters(TPA)10^<-8>M添加後4時間から16時間にかけてcーmycの発現は抑制され, 24時間後には再び回復した. cーfosはTPA添加後1時間に急激に増加し24時間後には消退した. c-sis,c-abl,N-myc,L-mycに変化は認めなかった. actinomycin DはこれらのmーRNA変化に影響を与えなかった. (2)ゲノムDNAをTPA添加後4時間にて回収し, 各濃度のDNaseIにて処理後, サザン法により5'末端のDNaseI高感受性部位を調べた結果,TPA添加細胞ではIII位置の感受性部位が消失していた. fos遺伝子に関しては現在検索中である. (3)分化誘導後には, mーRNAの量が急激に低下するため,細胞大量培養と回収方法の改善を行ない, 現在, 分化誘導後のmRNAを用いて引き算法を行なっている. これらの研究成果は,造血器細胞の中でもこれまで解析が困難であった血小板・巨核球系細胞の増殖にcーmyc遺伝子が, 又, 分化過程に, fos遺伝子が関かわり,cーmycの遺伝子上に何らかの制御蛋白が存在することを示唆している.
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