研究概要 |
小児外科の発達に伴い小児外科疾患の治療績向上は著しく,今後は救命のみに甘んずることなく臓器保在,機能温存は勿論のこと精神発達面をも配慮した治療が不可欠である。 そこでまず小児の手術侵襲受容様式を知るべく内分泌学的検討を施行した。術後の侵襲ホルモンの推移は質的に成人と類以するも,最大の相違点は血中カテコラシン,コ-チゾルが高値遷延化傾向を示すことであった。このことは小児の侵襲に対する感受性が成人に比べ高いことを示唆した。 次に新生児期に手術を受け年長に達した患児の精神発達について、津守の発達指数(DQ)により分折した。その結果,手術侵襲量,手術回数,入院回数および入院期間がDQと負の相関を示した。すなわち小児期の外科的侵襲が精神発達指数の低下につながることを示唆した。疾患別では直腸肛門奇形のDQが他疾患に比べ有意に低下しており,しかも侵襲の大きさと無関係のことから本疾患にはDQ低下につながる因子が内在することを示唆した。さらにBenden数ーGestalt(BGiT),WISCーR知能検査を施行し精神発達への影響を追求した。その結果,手術回および入院期間がBGiTと正の相関を示し,またWISCーRについては、手術侵襲量が言語性IQと,手術回数が言語性IQおおび全IQと,さらに入院期間が言語性,動作性および全IQと各々負の相関を示した。疾患別では直腸肛門奇形がBGT,WISCーRともに他疾患に比べ有意に劣っていた。これらはDQの結果と一致するものである。なお,身長、体重などの身体発育に関しては外科的治療に関するいずれの因子とも相関はなかった。 以上の如く小児期の外科的侵襲が精神知能発達に悪影響を与えることが明らかになったことから、小児の外科的治療に当っては侵襲を可及的に軽減すべくなんらかの方策を講ずる必要がある。
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