研究概要 |
直腸脱の成因が直腸肛門内圧測定,注腸排便造影,直腸内超音波検査の結果から,盲嚢化した深いダグラス窩に努責時,排便時に腹圧がかかり,直腸壁が前壁を主に直腸腔内へ陥入することにより,直腸腸重積をきたすことにあることを確認した. 誘発電位測定では成人例において外肛門括約筋の活動減弱を認めたが,小児例ではこれを認めなかった. 組織学的検索では一部の例においてfibromuscular obliterationを認め,ムチン染色においても殊に成人例においてシアロムチン優位のムチン産生の異常を認めた. 保存療法に反応しない例に外科的治療を行った結果,いずれの例のダグラス窩は深く盲嚢化していた. 小児例では直腸肛門括約能が正常であり,外肛門括約筋機能不全を認めないことから,手術術成は深いダグラス窩を浅くし,直腸を仙骨前面に固定するSudeck変法を用いた. 成人例では外肛門括約筋機能不全を認める例にはSudeck変法に挙肛筋縫縮術を併せ行った. 外科治療後の検討では直腸肛門内圧は小児例では肛門括約不全の例は認めず,成人例では括約不全状態の改善を認めた. 注腸排便造影では直腸の脱出を認めず再発なく,直腸内超音波検査においてもダグラス窩は浅く保たれ直腸壁の滑りも認めなくなっていた. 誘発電位では術前機能不全を認めた成人例において改善傾向を認めた. 直腸脱類似疾患(直腸粘膜脱症候群,直腸孤立性潰瘍症候群)についても検討を加えた. 注腸排便造影では直腸前壁の下垂を認め,直腸内超音波検査ではダグラス窩は深くないが,前壁の滑りと直腸内への陥入を認めた. 組織学的には前壁にシアロムチン,fibromuscular obliterationを認めたが,後壁は正常であった. これらの所見は直腸脱の例で得られた結果と類似性を認め,直腸脱類似疾患の外科的治療方針の根拠の得られつつある.
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