直腸脱の発生機序あるいは病態生理に関しては多くの説があり未だ明らかなものはない。発生機序を解明する一つの方法として注腸造影法が行なわれているが、排便機能をみるためには排便運動が動的であることから、これを動的に記録する必要がある。本研究では、排便を動的に観察記録する簡単な方法を考案し、直腸内超音波検査をこれに併用することによって直腸脱の発生機序を検討した結果以下の知見を得た。直腸脱22例(Tuttle分類I度4例、II度13例、III度5例)を研究対象とした。直腸内超音波検査はAloka製超音波診断装置SSDー650、経直腸探触子USTー657を用い、安静時、努責時の画像を観察した。注腸造影検査は東芝製BVーSystemを用い、造影剤の注腸法にておこない、排便造影をおこなった。またこれらの検査はいずれもビデオ装置で記録し、コマ送り再生にて検討した。直腸脱のTuttleI度では、安静時直腸肛門角は鋭角に保たれ、排便時消失したが、画像上明らかな直腸の脱出は認めなかった。直腸内超音波検査ではダグラス窩は深くなく、直腸壁の滑りを認めた。TuttleII、III度の排便造影では、直腸が前壁を主に全周性に直腸内へ嵌入し、III度では直腸内直腸脱として直腸内に留り、遠位直腸が盃状に造影され、II度では直腸の肛門外への脱出が認められた。直腸内超音波検査ではダグラス窩はいずれも深くcul de sac化し、努責につれて腸管が深く入り込み、直腸壁の滑りが明瞭に認められた。以上より完全直腸脱、不顕性直腸脱ではcul de sac化した深いダグラス窩に腹圧がかかり直腸腸重積を起こすことが発生機序として重要と考えられた。
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