細胞核DNA量分布パターンは、癌の生物学的悪性度の指標として有用である。そこで、このDNAパターンが胃癌の進的に伴うリンパ節転移や他の臓器への浸潤転移と、どのように関係しているかを検討した。1)胃癌の原発巣とリンパ節転移巣のDNA量を比較した結果、61例中37例(60.7%)に、リンパ節転移巣のDNAパターンが原発巣に比べより狭い分散を示すploidy reduction現象が認められた。ploidy reductionを呈した転移リンパ節を組織学的に検討すると、paracortical hyperolasiaが顕著な症例が存在することから、リンパ節の免疫反応がこの現象に一部関与している可能性が示唆された。2)胃癌254例についてDNAパターンと深達度の関係を検討した。high ploidyの割合はm癌24.0%、sm癌45.6%、pm癌38.9%、S癌53.1%であり、癌の深達度とともに次第に増加する傾向がみられた。low ploidy群(I、II型)のリンパ節転移率をみると、m癌17.5%、sm癌18.6%、pm癌22.7%、S癌53.3%と比較的緩徐に増加するのに比べ、high ploidy群(III、IV型)ではm癌0%、sm癌36.1%、pm癌42.1%、s癌91.2%と、転移率は癌の深達と共に急激に増加する傾向にあった。3)漿膜浸潤陽性胃癌40例を対象とし、胃癌の各浸潤層別のDNA量を測定した。40例中31例(77.5%)が各層間においてDNAパターンに変化のみられないhomogenous型であったが、9例(22.5%)はいずれかの浸潤層でDNAパターンの異なるheterogenous型であり、深達度が深くなるほど分散幅が広くなる傾向がみられた。homogenous群とheterogenous群のリンパ節転移率を比較すると、54.8%(17/31)と100%(9/9)でありheterogenous群の転移率が高かった。又、heterogenous群はhomogenous群に比して、分化型腺癌では静脈侵襲率が、低分化型腺癌では腹膜播種陽性率が高い傾向が認められた。以上の事実をふまえた上で、今後はDNAパターンと胃癌の進行及び悪性度との関係を総合的に考察することが必要である。
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