研究概要 |
臨床的に肝硬変症例の術前に経静脈栄養を施行し、肝硬変例で栄養状態の改善がみられるか否かについて検討した。症例はいずれも肝硬変例で、経口摂取(約2,300Kcal/日)に加え、700Kcal/日の経静脈栄養を術前2週間にわたり行った。栄養評価の指標としては、(1)体重、(2)上腕三頭筋部皮下脂肪厚(TSE)、(3)上腕筋囲(AMC)、(4)レテノ-ル結合蛋白(RBP)、(5)プレアルブミン(PA)、(6)トランスフェリン(TF)、(7)皮膚ツベルクリン反応(8)末梢リンパ球数、を用いた。経静脈施行前後で、これらの値を比較した所、体重では、1.0〜1.5kg増加、TSFは、2mmの増加を認めた。但し、他の栄養指標に差はなかった。また肝機能に関しては、上記強制栄養を行っても、改善、増悪のいずれも認められなかった。これら症例は、肝癌のため肝切除術を施行した。いずれも肝障害高度であり、従来の経験からすれば、術後管理上、かなり厳しいことが予測されたが、合併症はなく、無事退院となった。以上の経験は、術前栄養改善が手術適応の拡大、治療成績の向上に繋る可能性を示唆するものである。 実験的には肝切除を施行したラットをIVH下に管理し、分岐鎖アミノ酸を多量に含む特殊アミノ酸液(バリン840mg、ロイシン1100mg、イソロイシン900mg)、ド-パミン、ベキサ-ト(FOY)を投与する事により、再生肝に及ぼす影響について検討した。その結果、ド-パミンにおいては、肝再生率は、対照群に比べ、肝切除施行30時間目に54.1±5.0(対照群41.0±5.1(p<0.01))、核分裂像では、細胞1,000個当り47.4±18.4(対照群22.6±6.6)であり、本剤で肝再生を促す傾向を示した。一方、ベキサ-ト(FOY)にはこの作用はなかった。特殊アミノ酸製剤については、現時点で、実験継続中である。
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