小児開心術時に起こり得る急性心不全に対する補助循環法として、大動脈-大動脈拍動バイパス法の実験を継続してきたが、実験方法の改良とともに、不全心に対する本来の効果を検討した。 左冠動脈結紮により不全心とした犬を1時間放置後に、大動脈-大動脈拍動バイパスを1時間作動させた。バイパス群とバイパスをしない対照群について経時的に、心電図、各部の圧、心拍出量を観察、測定した。各測定時には、左房圧を10mmHg、15mmHg、20mmHgに調節して観察した。 バイパス作動により、圧曲線パタ-ンは、大動脈バル-ンパンピングと同様のsystolic unloading効果とdiastolic augumentation効果を示し、左房圧が著名に低下して、1時間のバイパス後は心電図も改善した。 左房圧15mmHgにおける左室最大収縮期圧は、対照群では初回124.1±27.4mmHg、60分後110.0±23.7mmHgと低下傾向を示したが有意差なく、一方、バイパス群では初回108.0±23.2mmHg、60分後87.7±15.2mmHgと初回の値および対照群に比して有意に低下した。心係数(心拍出量/体重)についてみると、対照群では初回(結紮1時間後)105.6±18.6ml/min/kgから、有意差はないものの60分後に95.8±18.6ml/min/kgまで、次第に低下傾向を示したのに対し、バイパス群では初回(バイパス前)113.0±20.8ml/min/kgから、60分後には155.8±30.1ml/min/kgと有意に上昇し、バイパス停止後は173.7±34.8ml/min/kgとさらに上昇した。左室1回仕事係数、左室分時仕事係数でも同様の結果が得られた。心機能曲線において、対照群では時間の経過とともに下方にずれるが、バイパス群では経時的に上方に移り、勾配も大きくなった。 このように本法は、小児を想定した動物実験においてきわめて有効であり、今後わずかの技術的問題が解決されれば、小児開心術時の急性心不全に対する補助循環法として実現の可能性が大きいものと思われる。
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