研究概要 |
対象と方法: 移植心の拒絶反応における血漿中ミオシン軽鎖濃度の診断学的意義について検討を加えた。方法としては、ニホンザル♂、レシピエント体重5.5kg-11.6kg平均9.2kgについて、腹腔内異所性心移植を計6回施工した。術式は、ドナ-心の大動脈とレシピエントの腹部大動脈、ドナ-心の肺動脈とレシピエントの下大動脈を吻合する方法を用いた。移植後免疫抑制剤は投与せず、心拍動停止をもって拒絶した。拒絶までの日数は8,9,11,12,20,27日であった。心拍動停止まで経時的に採血を施行し、血中のミオシン軽鎖をモノクロ-ナル抗体を用いた、radioimmunoassay法により定量した。 結果、ミオシン軽鎖の値は移植後5日以内に一過性の最大値を示した後に低下し、その後移植心の拒絶に伴い、再度上昇を示した。すなわち移植前のミオシン軽鎖値は1.6±3.1ng/ml(n=6)、移植後5日以内の最高値は322.2±11.3,(n=3)6日以後の最低値は3.4±3.4,心拍動停止時には19.8±12.9(n=6)であった。拒絶による心拍動停止時の値は移植前の値および6日以後の最低値に比べて有意の上昇を認めた。 考察:心・心肺移植後の心筋拒絶については、臨床的には心内膜生検が最も重要で信頼がおけるが、患者に対する侵襲、負担を考慮すると簡便かつ鋭敏な検査法の開発が期待されている。ミオシン軽鎖は本来壊死心筋から流出するため、心筋梗塞の診断に有用とされていたが、今回の研究では、拒絶に伴いミオシン軽鎖値が再上昇する事が示された。これは心筋拒絶にともなう心筋細胞の壊死に平行して認められる現象と考えられた。ミオシン軽鎖値は心拒絶の完成に先立ち上昇する傾向にあるため、拒絶の早期診断に有用である可能性がある。移植後5日以内の一過性の上昇は手術による影響とも考えられ、移植後1週間以後のミオシン軽鎖値の再上昇が心拒絶に関連するものとして重要と考えられた。
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