解離性大動脈瘤における瘤の拡大、破裂という問題を考えて行く上で、その形態と、解離腔壁に実際に加わる力(=壁応力)、および流れの関係は重要である。それらの問題を解明すべく、人工血管にて解離性大動脈瘤のモデルを作成し、イヌ下行大動脈に置換して実験を施行した。まず、人工血管を用いて偏心接触二重円管を作り、外側の血管の両端は閉鎖した。entry re-entryに相当する内外側血管の共通孔を設けたが、そのあけ方により、三種類を用意した。1つは、上、下流それぞれに10m/mの共通孔を有し、他の1つは上流にのみ10m/mの共通孔を持ち、残り1つは下流にのみ10m/mの共通孔を設けた。これらのグラフトは使用に先立ち予めイヌ血液でpre clottingし、洩出を防止した。 また、グラフトには壁側圧を測定出来るようにグラフト壁に垂直に圧取り出し口を取り付け、同時圧が測定出来るようにした。イヌの循環血液量を補液と薬物によって調節し、グラフトに流れる流量を変化せしめた。 平均流量0.83〜0.95l/minの高流量群では上流にのみentryを有するグラフトでは、解離腔圧は3種類の中で最も高く保たれ、下流にのみentryを有する場合には最も低く保たれた。上流・下流にentry re-entryを有する場合には、これら2つの中間の値を示した。これらの圧変化は収縮期圧で著名であった。しかし、低流量群ではこれらの変化は十分には認められなかった。 以上の実験よりイヌ心拍動下では、解離腔圧は上流にのみentryを有する場合には高く保たれ、逆に下流にのみentry(=re-entry)を有する場合には低く保たれることが明らかとなった。
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