研究概要 |
坐位手術(頭部挙上)時の空気塞栓予防法について, 「昇圧」と「持続的頚部圧迫」が有用と考えているが, 今回はそれらの弊害について犬を用いて検討した. 本年度は特に「昇圧」の脳循環, 脳機能および血液脳関門機能に対する影響を中心に実験を進めた. 脳循環は水素ガスクリアランス法による脳皮質血流量(rCBF)と, 矩形波電磁血流計による椎骨動脈血流量(VBF)にて評価し, 脳機能は皮質脳波(cEEG)を導出した. 血液脳関門機能は, Evans blueの漏出度を検索した. また静脈洞交会圧(CSP)を測定し, 中心静脈圧(CVP), 頭蓋内圧(ICP), 平均血圧(MABP), 脈拍(PUL), 心電図(ECG)をモニターした. 1, 頭部挙上(-10°から45°)時の諸変化(基礎データー):45°でCSPは吸気時-8.8±0.8(M±SD)cmH_2O, 呼気時-10±0.4cmH_2Oとなりいずれも陰圧を示した. CVPも吸気時-2.5±0.4cmH_2O, 呼気時-4.1±1.3cmH_2Oでやはり45°では陰圧となった. この間ICP,MABP,PULは, 0°を基準として各角度での変化分(%)をだしたが, 45°ではそれぞれ平均11%減少, 11.5%減少および14.2%増加を認めた. 脳循環ではrCBFが45°で平均19.7%,VBFが平均27.3%減少し, EEGは頭部挙上に従い, 軽度徐波化傾向を認めた. 血液脳関門機能は, いずれの角度でも破綻が認められなかった. 2.水平腹臥位での昇圧(Dopamine1ー5μg/kg/m.,d.i.v):平均血圧で40%増加まではrCBFは軽度の増加であるが, これを過ぎると急激に増加し, いわゆるbreak through現象が始まった. 同時にEEGでの徐皮化と血液脳関門機能の破綻が認められた. この時, CSPは前値より平均7ー8cmH_2O増加した. 3.45°頭部挙上位での昇圧(Dopamine1ー8μg/kg/m.,d.i.v):CSPの陰圧と脳循環を改善するためには, 水平位に比し若干高めの昇圧が必要であった. 逆に脳機能と血液脳関門機能は低めの昇圧で影響が出始めた. 以上の結果より脳機能の面からは, 平均血圧30ー45%程度の昇圧が空気塞栓の予防に有用と思われた.
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