坐位手術時の空気塞栓を予防するために臨床例や動物実験にて、硬膜静脈洞圧を検討したところ、その発生には重力のみならず、頸部の前屈や回転術中諸操作、出血や薬剤による血圧の低下、呼吸法などが影響し、一方頸部後屈、調節呼吸時のPEEP、頸部や腰部の圧迫、血漿増量剤の補液輸血あるいは体血圧の上昇操作(昇圧)が予防に有用と思われた。中でも昇圧と頸部圧迫に臨床応用の期待が持たれ、それらの脳循環脳機能及び血液脳関門機能(BBB)への影響について、さらに動物実験を行った。脳循環は昇圧の場合には大脳皮質血流量(rGBF:水素ガスクリアランス法)と頸部椎骨動脈血流量(VBF:矩形波電磁血流計)を、頸部圧迫の場合には、rCBFのみを測定した。脳機能は皮質脳波(cEEG)を導出した。BBBは3%Evans blueを静注し、その漏出度を部位別に検索した。頭蓋内圧(ICP)も検討した。 (1)昇圧:Dopamineを使用し、45度頭部挙上位で平均血圧を40%上げた際の諸変化を、80%と対比して検討した。脳循環では、頭部挙上によりrCBFが19.7%、VBFが27.3%減少したが、40%昇圧でrCBFが8%、VBFが7%増加した。80%では自己調節能が完全に破綻した。cEEGでは挙上で認められた徐波が40%昇圧でかなり改善したが、80%ではむしろ増悪した。BBBでは40%の昇圧では漏出はみられず、80%では高度にみられた。ICP(21.2%)の低下は、40%昇圧で改善傾向を示した。(2)頸部圧迫:血圧測定用カフを皮膚に密着するように巻き、カフ内圧は15mmHgとし、30mmHgを対照に用いた。rCBFはカフ内圧15mmHgで22.3%減少し、30mmHgでは45%とかなり減少した。cEEGでは頸部の圧迫と伴に徐波が出現し、BBBでは15mmHgでは漏出はなかったが、30mmHgでは高度に漏出した。ICPは頸部圧迫で増悪傾向を示した。以上の結果から、約40%程度の昇圧が空気塞栓の予防に有用で、臨床に応用しても問題ないと思われたが、頸部圧迫には幣害が多くもし行うのであれば、一時的な処置として行うべきと思われた。
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