研究概要 |
ラットを用いて, 一過性全脳虚血(虚血1分, 5分, 30分及び虚血負荷後血流再開10分, 30分, 60分において)におけるイノシトールリン脂質(monoditriーphosphoinositide:各々MPI,DPI,TPI)代謝動態について検討した. 虚血によりDPIとTDIは速やかに減少し, 血流再開にて虚血前値に復した. MPIは全経過を通じてほとんど変化しなかった. Diglycerideは虚血により増加し, TPLとほぼ対称的な変化を示した. 虚血により遊離脂肪酸(FFA)は増加したが, 虚血負荷直後より増加する群(アラキドン酸, ステアリン酸)と徐々に増加する群の2群を認め, それぞれ血流再開により虚血前値に復した. リソリン脂質は虚血後増加し以降虚血中でも減少傾向を辿り, 血流再開により虚血前値に復した. 脂質構成脂肪酸については, イノシトールリン脂質はアラキドン酸とステアリン酸を多く含有しているが全経過を通じて構成比については変化はなく, 一方Diglycerideは虚血後アラキドン酸とステアリン酸の含有率が一過性に増加し, 血流再開により虚血前の構成比に復した. 以上により虚血後のイノシトールリン脂質の減少はDiglycerideの増加を介してアラキドン酸を遊離していることが明らかとなった. また30分虚血においてはイノシトールリン脂質代謝は可逆的であり, イノシトールリスポンスは破綻していないものと考えられた. これらの結果をふまえて, イノシトールリン脂質が虚血早期より減少する機序の解明を行うことが昭和62年度の研究課題である. 我々は仮説として, 虚血早期の神経伝達物質の異常放出により, phospholipaseCの活性が生じることを考えており, この点を明らかにするため, synaptosone to brain sliceを用いた基礎実験を計画している.
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