研究概要 |
悪性脳腫瘍の治療に用いられるACNUなどの脂溶性抗癌剤の組織移行量は組織血流量に依存する. 従って, 腫瘍血管に選択的に作用する薬剤により, 正常脳組織の血流量を変えずに腫瘍組織の血流量を増加させることが可能ならば, 脳腫瘍内に選択的に多量の抗癌剤を到達させ, 化学療法の効果を高めることができる. そこで, 腫瘍組織血流量の選択的増加を目的として, アデノシン及びATPを用いて動物実験を行った. RGーC6グリオーマ細胞を定位的に脳内に移植したラットを用い, ハロセン麻酔, 人工呼吸(ユニークメディカル社製動物人工呼吸器SNー480ー7ー10)下に, 血圧及びendotidal PCO_2をモニターしながら, 経静脈的あるいは経頚動脈的にシリンジポンプ(テルモSTCー521)を用いてアデノシン・ATPを持続的に投与し, 水素クリアランス式組織血流計(ユニークメディカル社製MHGーDIU)で腫瘍及び正常脳組織の局所血流量を測定し, レクチコーダー(日本光電RJGー412V)で記録した. ラットの体温は, 英国バイオサイエンス社製体温コントロールシステムで37℃に保った. その結果, 腫瘍組織血流量はATP及びアデノシンの経頚動脈的投与により, 各々, 平均的31%及び44%増加したが, コントロールとして用いた正常ラットの脳組織及び腫瘍ラットにおける非腫瘍部分では, ATP及びアデノシンの投与により, 血流量の変化はほとんど認められなかった. また, ATP及びアデノシンの経静脈的投与では腫瘍組織血流量は増加しなかった. 即ち, ATP・アデノシンの経頚動脈的投与により腫瘍組織血流量は選択的に増加し, 脂溶性抗癌剤の腫瘍組織への到達を選択的に増加させることが可能と思われる. 今後は臨床応用を試みながら, 更に薬剤の作用機序解明・投与量の検討, 他の血管作動性薬剤の効果などについて, 基礎的研究を重ねていく.
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