研究概要 |
腰部神経根障害の症状発現のメカニズムを理解するためには, 神経根部に発生する障害を客観的にとらえることがまず要求される. その理解の上にさらに障害部位における組織血流の変化, あるいは腰椎の不安定性など, 動的とも言える要因がどのような付加的な影響を及ぼすか否かも検討されなければならない. 本年度は臨床例を用いた研究として, 手術症例における術中神経根電位の記録, 神経根部に電気刺激を加え, 強さ時間曲線の描記を行った. 末梢神経幹刺激により, 神経根部から単極針電極を用いて記録した電位は, 明らかに低振巾を示すと判断されたものが多く, 中には多相性波として観察されたものもあった(8根中3根). しかし, これらの所見は針電極の微妙な位置の相違により影響を受けることがしばしば経験されたことから, 術前検査として施行することの困難さを示すものとして理解された. 神経根部に電気刺激を加え, 強さ時間曲線を描記する試みは, 現在までに8神経根に行ったが, 神経学的に障害の著しいと考えられた神経根3根においては, 曲線の右上方移動が認められた. この変化が誘発電位の低振巾化, 多相性化と一致したものは2例のみで, 今後このような症例をさらに収集したいと考えている. ネコを用いた動物実験においては, まず, 末梢神経幹電気刺激が神経根部あるいは馬尾の血流に及ぼす影響を観察した. 脛骨神経に20〜〜30Hz, 閾値の約5倍の強さの電気刺激を加えると, 上記部分の血流が増加することを交差熱電対法を用いて観察することが出来た. この影響は一時的なものであったが, 現時点までの観察ではこの現象の下での神経活動電位の振巾の変化などは, 観察し得ていないが, 慢性障害神経根をサルを用いて作製中であり, ヒト手術例の障害根における観察も含めて, 検討を行いたいと考えている.
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