腰部神経根障害に伴う病態は、障害された神経根の髄節症状として定型的に理解される場合と様々な神経症状に修飾された複雑な、時には非論理的とも云うべき症状を示す場合とがある。本研究の目的はこれらの腰部神経根障害に伴う病態を改めて検討しその対策を講ずることであった。そのために基本的に多根性の症状を呈することの多い腰部脊柱管狭窄症、さらには腰部椎間板ヘルニア、その他の要因による腰痛症などを対象として検討を行い、動物を用いた実験的検討も加え、多面的な解析により神経根障害の発症のメカニズムについて検討を行った。 我々が経験した臨床症例を分析した結果、隣接した神経根ブロックが愁訴発現の原因と考えられていた髄節症状を軽減したと判断される症例が認められた。また随伴する腰痛についても椎間関節ブロックの効果について検討したところ、椎間関節由来と考えられる疼痛のみならず腎部、下肢に放散する関連痛の消失などに加えて、下肢の異常筋緊張の低下など多彩な影響が観察された。また、臨床的に障害が加わっていると考えられた神経根から電気生理学的に異常所見が認められなかった例もあった。これらの所見を総合的に判断すると、神経根障害と判断される症状は典型的な場合には単純に根障害として理解される。しかし、かなり非定型的な症例も存在し、種々の疼痛を伝達する信号が傍脊椎神経節あるいは脊髄後角において集積され、それに当該根からの何らかの程度の上行するインパルスが加重されて疼痛として認識されるというよなメカニズムが関与しているのではないかと推論された。また、間歇性跛行の際に出現する髄節症状に対する末梢神経幹電気刺激の効果を根の血流の変化としてとらえようと試みたがその変化は極めて軽微であり、他の要因の関与が考えられた。このメカニズムも単純ではないことが示嗟された。
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