研究概要 |
成人呼吸窮迫症候群(ARDS)に対する呼吸管理法の一つとして, 膜型人工肺による呼吸補助が注目されてきたが, 従来の方法では, 体外循環維持のためのヘパリン全身投与が出血傾向を惹起し, そのために救命できないことが最大の問題であった. 我々は, 1985年以来, ヘパリン加工表面(Heparin Surface)についてスウェーデンのカロリンスカ研究所と共同研究を行なっているが, 今回スウェーデンから入手したヘパリン加工膜型人工肺及び体外循環回路を用いて, 雑種犬でヘパリン非投与で24時間の部分体外循環(ArterioーVenous Bypass)による呼吸補助を試行した. 体外循環施行中, 凝固時間・血小板数・アンチスロンビンIII活性・部分スロンボプラスチン時間・プロスロンビン時間などに著変なく, さらに膜型人工肺からの血漿漏出も認められず, 24時間の体外循環を維持することができたが, 膜型人工肺内と体外循環回路の接続部に少量の血栓形成を認めた. しかしながら, 血栓形成部位が血流うっ帯部位に一致していたことから, 流体力学的な面から膜型人工肺や回路を改良することによって, ヘパリン非投与でもこれらの血栓形成は防止できるものと思われた. ArterioーVenous Bypassは初の試みであったが, 以上の様な結果から, VenoーVenous Bypassと同様に臨床応用が可能と思われた. また, Heparin Surfaceの抗凝固機構については, 第Xa因子とアンチスロンビンIIIを用いて, Heparin Surfaceによる第Xa因子の取り込みと阻害について研究した. その結果, まずHeparin SurfaceがアンチスロンビンIIIを吸着することが明らかとなり, さらにアンチスロンビンIIIを吸着したHeparin Surfaceが第Xa因子を取り込んで, その酵素活性を阻害することが解明された. 以上の研究結果から, Heparin Surfaceが血管内皮に類似する抗凝固機構を有すると結論し, 報告した.
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