研究概要 |
羊水塞栓症はきわめて重篤な超急性疾患で, 産科領域での医事紛争の主要な原因となっている. その確定診断は現在のところ剖検による他にない. 私たちは, 羊水のみに存在し, 母体血中にはない特異物質が存在するならば, それをマーカーにして, 羊水の母体血中への移行の有無を知ることができ, そのことによって, 羊水塞栓の非剖検的診断が可能であろうとの作業仮説をたてた. まず, プロテインA, 抗ヒト血清抗体とのコンプレックスに羊水を加え, 血清と羊水との共通蛋白質を沈澱させ, 上清分画に羊水特異蛋白を得た. これを, 各種クロマトグラフィーや電気泳動的抽出法により精製した. さらにきわめて力価の高い本物質に対する抗体を作製した. 本物質は妊娠14週には羊水中に意現し, また脱落膜にも存在することが明らかにされた. 種々検討を重ねているうちに, 本物質は分子量, 等電点などから, 胎盤蛋白のひとつであるソマトメジン結合蛋白(BohnのPP_<12>に相当)と類似していることがわかりBohnとの国際協力的研究により, PP_<12>とわれわれの物質とは全く同一物質であることが明らかにされた. 本物質の羊水中濃度は, 妊婦血清中の100〜1,000倍もあるため, 相対的に羊水中の特異蛋白として認識されたものと考えられる. したがって, 今後はこのソマトメジン結合蛋白のみならず, カルフオバインディン(私たちの発見した胎盤性抗凝固物質, 羊水中に多く, 血中には微量に存在), さらには非蛋白性羊水物質, 例えば, 胎児尿成分(コプロポルフィリン)や胎糞成分などを同時に測定し, 総合的なパラメーターからの判定が必要になってきた.
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