研究概要 |
〔1〕羊水中ドパミンの産生機構の検討 陣痛発来前の正期帝王切開分娩において,母体血,胎児血,羊水,胎児尿を採取し,ドーパ(ドパミンの前駆物質),ドパミン,DOPAC(ドパミンのmonoamine oxidaseによる代謝産物),ノルエピネフリン,エピネフリンを高速液体クロマトグラフィーにより測定した. その結果,胎児は母体とは独立したカテコラミン環境を形成しており,特に母体に比較し著しい高ドーパ血症の状態にあることを認めた. さらに,羊水中ノルエピネフリン,エピネフリンは胎児血中の各分画が胎児腎より胎児尿を介して羊水中の排泄させたねのであるが,ドパミンについては,羊水中濃度は胎児血中濃度の17倍の高値であり,胎児血中ドーパ濃度との間に有意な正の相関を認めた. 次の動物実験としてWistar系ラットを使用し,母獣血,胎仔血,羊水中の各カテコラミン系物質および胎仔腎においてドーパをドパミンに転換する酵素であるdopa decarboxylase(DDC)活性を妊娠末期経日的に測定した結果,胎仔血中ドーパ濃度および胎仔腎DDC活性は胎生末期有意な増加を示し,さらに羊水中ドパミンは末期3日間で16倍増加した. これらの結果より,妊娠末期におけるドパミンprecursorであるドーパの胎児血中濃度の増加と胎児腎DDC活性亢進とがあいまって,羊水中ドパミンが増加するものと考えられた. 〔2〕羊水中ドパミンの代謝機構の検討 ヒト卵膜中のmonoamine oxidase(MAO)活性を測定し,脱落膜>絨毛膜>羊膜の順に強いMAO活性を認めた. さらにヒト羊水と卵膜とのincubation実験により,羊水中ドパミンが卵膜に存在するMAOによりDOPACに代謝させている事を直接証明した. 以上,当初の研究計画に従って羊水中ドパミンの産生・代謝機構を解明した.
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