研究概要 |
人胎児胎盤系の発生・分化・成熟において各種癌遺伝子がいかに関与しているかを検討するため, 妊娠6週より20週にいたる人工妊娠中絶例の胎盤および胎児に注目し,これら組織よりRNAを抽出し,各種ヒト由来癌遺伝子プローブを用いてこれらの遺伝子の発現状況を分析した. 正常胎盤組織および胎児蔵器(肺・腎臓・肝臓・腸・脳)を週数別にわけそれらよりTotalRNAをグアニジン法にて抽出後Northernブロッティングを行った. また同時に組織を10%/PBSにて固定包埋後切片を作製しビオチンマビジン法にてInーsituハイブリダイゼーションを行い組織局在性も検討した. 結果はmyc癌遺伝子およびfms癌遺伝子の発現が正常絨毛組織に週数特異的に発現することが示された. myc癌遺伝子は妊娠初期(6週〜9週)に発現しそのpeakは7週前後と思われた. それ以後急激に発現は抑制され満期産に当る傾向が認められた. また, Inーsituハイブリダイゼーションの結果より絨毛を構成するCおよびSタイプのtrophoblastのうちDNA合成がよりActiveであるCタイプtrophoblastにのみmRNAが発現していることが示された. fms癌遺伝子もほぼmycと同様の発現パターンを示したがmycと異なり満期産絨毛にも発現が示された. またInーsituハイブリダイゼーションからfms癌遺伝子はCおよびSタイプのTrophoblastの両者にその局在性が示された. これらの結果より癌遺土子fms,mycは正常絨毛の増殖に強く関与していることが強く示唆された. 妊娠6〜9週の絨毛は母体の筋層にあたかも腫瘍の如く食い込む時期であり組織学にも腫瘍(絨毛癌)との区別が難しいとされている. このような時期に一致してCSFー1のリセプターとの相同性が強いfmsが発現していることを考え合わせると何らかの型で癌遺伝子蛋白が増殖因子およびそのリセプターと密接な関係を保ちつつ正常絨毛の増殖を制御していることが強く示唆された.
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