研究概要 |
本年度は以下の4項目について研究を行った. 1)破骨細胞の波状縁について,単離培養した破骨細胞を液体ヘリウム温度で急速凍結置換し, 微細構造を観察すると共に, deep-etching法を用いて検索を行った. その結果, 波状縁の膜の裏打ち構造として, 直径約10nmのイボ状構造物とクラスリン様構造が認められた. 前者は腎臓集会管上皮細胞に認められているH^+ポンプのたんぱく質構造に近似し, 波状縁膜におけるH^+の分泌機構と関連するものと考えられる. またクラスリン様の膜の裏打ち構造は主として波状縁基部に認められ, その場所ではレセプターを介してのendocytosisが活発に行われている事が示唆された. 次いで, 骨吸収から骨形成への細胞連鎖機構に対するセメント線CLの果たす役割について, 2)常に骨吸収のみが進行するラット切歯の唇側歯槽骨壁と骨帰造の顕著な切歯側壁歯槽骨面とを比較検討した. 唇側歯槽骨表面の大部分は破骨細胞で占められ, 骨芽細胞, 類骨層, CLも認められなかった. 一方, 歯槽骨側壁表面では, 歯根膜線維の改変と共に盛んな骨改造が起こるため, 破骨細胞に近接して骨芽細胞が認められ, CLも明瞭に観察された. 3)糖鎖合成阻害剤であるTunicamycin(TM)をラットに投与し, CL中に含まれる糖やACPaseの合成・分泌を阻害してCLの形成を抑制することにより生ずる, 骨吸収と骨形成のカップリングの変化について細胞化学的, 電顕的に観察を行った. その結果, TM投与により破骨細胞の形態は扁平・縮小化し, ACPase活性も減弱化しCLも不鮮明化するか消失して, 骨芽細胞の新たな分化も見られなくなった. 以上の所見は, CLが骨芽細胞の分化と密接な関係を有する可能性を強く強く示唆している. 4)骨吸収から骨形成への逆ィ相に出現する単核細胞について細胞化学的, 微細構造学的検索を試みた. その結果, 少なくとも骨梁の骨改造面における逆転相には, ACPase,TRACPase活性陽性の細胞がしばしば認められ, それらの多くは堀り出された骨細胞に由来することが電顕的にも明らかにされた.
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