| 研究概要 |
大きく変動する口腔環境の変化にともなって歯垢微生物の糖代謝がどのような機構によって変化しているかを知るためにStreptococcus mutans Strept ococcus sanguisなど歯垢中の主要酸産生菌が産生する酸の種類の決定に直接関与している二つの酵素, ピルビン酸ギ酸リアーゼ(PFL)および乳酸脱水素酵素(LDH)の環境変動に伴う活性調節の構を検討した.
S.sanguisの休止歯はPFLは糖欠乏条件では再活性化可能な, 酸素耐性不活性型(Rー型)に変換されて酸素傷害から守られていたが, S.mutansの休止歯はこのような変換ができなかった. しかし, これらレンサ球菌を低いpH条件に移すと両菌ともPFLをRー型に変換しこの酵素を酸素傷害から守っていることが判明した. その結果として活性型PFLが減少するため, 低いpHではこれら両菌は乳酸を, ことに嫌気条件で著しく多く産生するようになった. また, S.mutansは糖欠乏条件になるとPFL不活性化因子が合成され, この酵素を失活させていることが判明した.
乳酸脱水素酵素(LDH)の四次構造は菌体内の糖代謝中間体, fructose 1,6ーbisphosphateおよび無機リン酸の濃度変化によって二量体一四量体の変換を行なっていることが証明された. 試験管内では両者とも活性型である4量体に変換させることができるが, 実際の菌体内ではfructose 1,6ーbisphosphateの方が重要な働きをしているものと推察される. さらに, 嫌気条件下でその菌体内濃度が増加するNADHが, 二量体一四量体変換に必要であることが判明した.
これら, PFL,LDHの酵素型変換の様相は実際の歯垢中で, 糖が摂取され, 歯垢pHが低下し, 歯垢が嫌気的になる条件下で乳酸の産生が増加してくる事実ときわめてよく一致し, 人の歯垢中でこれら酵素の型変換が起こっていることを強く示唆した.
|
