前年度においてヒト骨肉腫由来の細胞株(HOS)に分化誘導物質として、グリセロリン酸を作用させ、生化学的、組織化学的解析並びに、電子顕微鏡観察による細胞内構造体の分析を行なったところ、HOS細胞株がin vitroで分化し、ハイドロキシアパタイトからなる石灰化物を細胞内に沈着する事を明らかにした。またKirsten株マウス肉腫ウイルス(KMSV)で形質転換したHOS細胞であるKHOS細胞では、これらの分化マーカーの発現が抑制されていた。 本年度においては分子生物学的手法を用いて、HOS細胞の分化能解析とオステオネクチン遺伝子の解析を行い以下の結果を得た。 1.ウシ象牙芽細胞のmRNAからオステオネクチンcDNAをクローニングする事に成功し、その全塩基配列を決定した。 2.ヒト臓器非特異型アルカリホスファターゼcDNA、ヒトグラ蛋白質cDNAの両者を用いて-グリセロリン酸で分化誘導前後のHOS細胞からRNAを抽出し、これらの骨原性細胞の分化マーカーの発現を調べたが、発現量が低く比較出来なかった。 3.KHOS細胞におけるKMSVゲノムDNAの存在様式とそのRNAへの発現をサザンハイブリダイゼーション、ノザンハイブリダイゼーション法を用いて検討したところ、KMSVゲノムがプロウイルスの形で1コピー、HOS細胞染色体DNAに組み込まれており、プロウイルスDNAから6.5kbの長さのRNAが転写されていることが判明した。一方HOS細胞にはKMSVゲノムDNA、RNAともに検出されなかった。以上の結果からKHOS細胞では、KMSVゲノム上の発ガン遺伝子k-rasが発現され、k-ras遺伝子がHOS細胞のもつ分化マーカーの発現を抑制する可能性か示唆された。
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