硬組織のガンである骨肉腫はin vivoで多様な分化形態を示す事が知られている。本研究では、この様に分化能を持ちうる骨肉腫から樹立した培養細胞株、HOSを用いて、1.HOS細胞はin vitroで分化誘導が可能か、2.Kirsten株マウス肉腫ウイルス(K-MSV)でさらに悪性化したHOS細胞(KHOS)での分化マーカーの発現はどうか、3.オステオネクチン遺伝子の構造解析を目的とした。得られた結果を要約すると以下の通りである。1.HOS細胞は骨原性細胞の分化マーカーである臓器非特異型アルカリホスファターゼを発現し、その発現誘導には細胞の隣接あるいは増殖速度の低下が関与する可能性が示された。また、グリセロリン酸、アスコルビン酸存在下で培養したHOSの細胞内に、カルシウムの沈着が組織化学的にも生化学的にも認められ、さらに電顕観察で認められた結晶構造物はDebye-Scherrer環分析、微小X線分析の結果ハイドロキシアパタイト(HA)である事が判明した。そこで初期石灰化像を電顕により観察したところ石灰化開始部位として、直径0.3-1umと1-3umの小胞様構造物を認め、前者は基質小胞と酷似していた。さらにHA結晶がコラーゲン線維に沿って成長する電顕像も観察された。以上の結果からHOS細胞はin vitroで分化誘導可能である事が判明した。2.前述の方法を用いて、KHOS細胞における分化マーカーの発現を調べたところ、発現が抑制されていた。KHOS細胞にはK-MSVゲノムDNAが1コピー、プロウイルスの形で組み込まれており、その転写産物も検出された事から、k-ras遺伝子が発現され、その結果HOS細胞のもつ分化マーカーの発現が抑制される可能性がしめされた。3.ヒト及びウシのオステオネクチン遺伝子cDNAのクローニングに成功し、それらの塩基配列を決定した。
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