顎関節内障患者の327関節に対して関節円板の動態観察を行ったところ、円板の位置ならびに動態異常が222関節67.9%にみられ、復位を伴わない前方転位が155関節69.8%、復位を伴う前方転位が57関節25.7%、協調失調8関節3.6%および復位を伴う後方転位2関節0.9%であった。さらに顎関節造影検査をエックス線CT装置にて行ったところ関節円板の描出、位置および形態が容易に判定できた。また造影をしないエックス線CT像でも矢状断と前額断CT画像デ-タをパ-ソナルコンピュ-タを用いてカラ-画構成像を描出させることにより関節円板の位置、形態を把握できた。なお術前の顎関節腔造影エックス線検査と術中所見との一致率は92%であった。次ぎに上関節腔内に顎関節観を挿入し病変を観察した結果、復位を伴わない円板前方転位症例では後方腔の滑膜うっ血および発赤などの炎症性変化と関節結節部滑膜のフィブリレ-ションおよび前方腔における前縁部や内側壁部の線維性癒着所見などの病変の存在が多くみられ、腔の狭小化がみられた。さらに復位を伴わない関節円板前方転位例の顎関節内障手術施行時における切除円板の連続切片標本における病理組織学観察の結果、円板後部結合組織では血管結合組織の反応性増殖が、円板中央部から後方部では膠原線維の減少や消失、線維細胞の密度の低下などの退行性変化が観察された。以上のごとく、顎関節腔造影エックス線所見、顎関節腔鏡視所見、顎関節内障手術時所見および手術時切除標本の病理組織学的観察結果から有意義な情報を得れるものの、顎関節内障も円板の転位の程度ならびに円板変形ないし変性の程度により、軽症のものから変形性顎関節症と識別困難な重症例まで多様な病態を呈し、とくに関節円板の推移ならびに運命について未だ不明な点が多いようであることから、今後も症例を追加しながら総合的に比較検討していく予定である。
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